「こぼし」は、茶道具の中で一番目立たない縁の下の力持ちです。茶碗をすすいだ湯水をこぼすので「こぼし」と言います。水を建えし(くつがえし)て捨てるという意味で「建水」とも言います。
点前の運び出しの時には、柄杓の合をこぼしの上にかけて持ってきます。落とさないように持って出ることが難しい所作です。一度落としてしまったら、柄杓にくるいが出てしまうので、心して持ってこなくてはいけません。茶会で運び出しのときに落としてしまったら、必ず清めなおしてから持ち出します。
点前の運び出しの時は合をこぼしにかけて持ってくるのに、仕舞でたたむ時は、柄杓の合をこぼしから落としてかけます。運び出しの時も、合をこぼしに落として持ってきたら落とす心配がないのにと思われるかもしれません。運び出しの時の柄杓は、柄杓が清浄であることの表れです。そして、仕舞の時に合をこぼしから落とすのは、こぼしの中には点前で使った汚れた湯水が入っているため、その湯気が合に入らないようにするためです。
こぼしに合をかけるか、落とすかの違いがこぼしの中が清浄かそうでないかの違いにあるとわかれば、様々な点前の時にも応用できます。旅箪笥の点前などで、水指を引き出す点前をする時に、こぼしに一旦柄杓を預ける時は、こぼしは清浄なので柄杓の合はこぼしにかけます。炉の濃茶の中仕舞いの時には、こぼしは汚れているため柄杓の合はこぼしから落とします。小さな心遣いが点前の中にはたくさん込められているのです。
柄杓の合をかけるか落とすかの違い