(隅田川の香合)
「伊勢物語」というのは伊勢から江戸までの旅で、在原業平が詠んだ歌を集めたものと言われているものです。
伊勢物語で一番有名な和歌「東くだり」でしょうか。「かきつばた」という5文字を句の頭に置いて旅の気持ちを詠んだ歌です。
「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」
「唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」
(何度も着て身になじんだ)唐衣のように、(長年慣れ親しんだ)妻が(京の都に)いるので、(その妻を残したまま)はるばる遠くまで来てしまった旅(のわびしさ)をしみじみと思う、と詠んでいます。
業平が旅の途中で富士山の付近を通ったのが旧暦5月末といわれています。その富士山を見てこんな和歌を詠んでいます。
「とき知らぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪のふるらむ」
季節をわきまえない山は富士の山です。(五月末なのに)今をいつだと思って、子鹿のまだら模様のように雪が降り積もるのでしょうか、と詠んでいます。
そして、業平が江戸の言問橋に到着して、一句。
「名にし負はば、いざ言問はん都鳥、わが思ふ人は、ありやなしやと」
都の名を名乗っている鳥ならば、おまえに聞いてみよう。京都に残してきた私の思い人(妻)は、今でも息災でいるかどうかと詠んでいます。
伊勢物語をテーマに抹茶を一服点てる。この和歌3首だけを見ても、どんな道具組にしようか悩みます。
「かきつばた」とか「唐衣」と名付けた和菓子もあります。淡い紫色の求肥を折りたたんで作られ、中に白あんが入っている和菓子です。5月は紫色の花が多いと感じます。
<お稽古のお道具組>
棚 丸卓
水指 青磁 竹
茶碗 刷毛目
替 雲堂手
茶入 高取
仕覆 業平菱
茶器 籠棗 都鳥絵
茶杓 銘 富士
5月末、涼しげに感じる青磁の竹の水指です。濃茶は朝鮮の茶碗に高取の小ぶりな大海です。「伊勢物語」のテーマですから「業平菱」の仕覆を用意しました。
続きお薄にして、雲堂手の茶碗を持ってきました。棚からおろした籠棗には、水紋と都鳥の絵が描いてあります。茶杓銘は「伊勢物語」に合わせて、「富士」と名付けました。爽やかな初夏の旅の様子が伝わったらうれしいです。
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