茶席に入る前に、敷居より手前に扇子を置いてあいさつをします。扇子の要(かなめ)が右で竹の面が上下になるように置きます。右手で扇子を帯から抜き取り、要の方を持っておき、畳付きには竹の面に置くことで、扇子が痛まないようにするためです。帯に挟む時も、竹の面が帯に当たるように差し、竹の面を持って抜き取ります。これも、和紙の方を持たずに扇子を傷めないようにするためです。
扇子を自分の前に置いてあいさつすることには「結界」の意味があります。世間から茶室という別世界へ一歩踏み入れるための結界です。先生と生徒としての礼の結界にもなります。「礼に始まり、礼に終わる」道のつくものは、必ずこの言葉から始まります。あいさつが済んだら、畳の和室へ進みます。畳の歩き方は、すり足です。これは、千利休の能の師匠・宮王三郎から学んだ歩き方を利休が茶室に取り入れた歩き方です。
茶室の畳の縁は「黒」が基本となります。客畳に座る時は、畳の縁から16目のところに膝がくるようにします。手のひら一枚より少し大きいくらいです。16目は自分と畳の縁との間に懐紙や茶碗を置くための空間です。この縁を結界として亭主と客を分けているという考え方です。黒色の縁は、修行の墨染の衣を表しています。茶室は、茶道を学ぶ修行の場なのです。